インドネシアで日本の電子コミックが売れぬ7つの理由

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人口2億6千万人の親日国インドネシア。日本のアニメ・マンガファンも多いとされ、中間層も急増中となれば「日本のマンガが売れるかも。電子書籍で。」というスケベ心が首をもたげても不思議ではない。事実筆者にも3年前に「インドネシアに日本の電子マンガを輸出だ~!」とインドネシアメディア界のガリバーであるグラメディア社に攻勢をかけた淡い青春の思い出が……。その後も日本の役所(経産・外務)が旗を振るクールジャパン政策に乗じて、日本からインドネシアに電子マンガを売って儲けようとする輩が入れ代わり立ち代わり出現している模様。グラメディアもあちこちから話が来て大変だろう。そんな動きに水を差すようで恐縮だが、なぜインドネシアでやすやすと電子マンガが売れないのか?筆者の見解の一部をご紹介する。

①圧倒的な読書習慣のなさ


以下営業の世界では有名な逸話。昔アフリカに靴を売りに行った営業マンが2人。現地では誰も靴を履いていない。これを見て「アフリカでは靴は売れない……」と考えた営業マンA。「アフリカでの靴のポテンシャルマーケットはデカい!」と考えた営業マンB。そして筆者はタイプAの営業マンである。インドネシアや近隣のマレーシアでの読書習慣のなさには唖然とする。三つ子の魂百まで。そんなすぐには読書熱心に変身できない。余談だが、アジアで特に活字に親しんでいる国は日本とミャンマー。ミャンマーの都市部は個人商店の集合体のような構造で、それぞれで商店の店番をしてる女性の多くが店番をしながら本を読んでいた。その光景を目にしたとき「この国は伸びる!」と確信した。ちなみにミャンマー女性の読書熱の原因は不明。

②デジタルコンテンツでは蒐集欲を満たせない


インドネシア大学、バンドン工科大学やガジャマダ大学など、現地トップ大学には日本文化を楽しむ学生サークルがいくつもある。彼らは異口同音に「インドネシア人はマンガ本を集めるのが好き」「電子マンガはここではまだまだ早い。先行投資にもほどがある。やめとけ」という。「読んで楽しむ」より「紙の本を集めて眺めて楽しむ」が優先する風潮。モノ余りの日本では本の置き場に困るからと書籍データをコンパクトにして管理したい人も多い。インドネシア人はまだその域には程遠い。筆者が訪れた若者たちの家ではたいてい本棚にマンガ本を後生大事に陳列してあった。どれほどブラックベリーが普及しても、facebookのユーザー数が世界一でも、まだまだ紙のマンガ(書籍)を大切にする文化が根付いた地域である。話が反れるが、紙のマンガも、そう簡単には売れない(理由は以下①~④)。なぜなら、①マンガを自分だけで読むのではなく回し読みすることも多いから。また②大学町では貸マンガ屋も発達。若者はマンガ本集めが好きとはいえ、③貧乏だ。したがって少数しか買えない。紙とインクの質が悪いのであまり繰り返し読むと紙がよれてくる。一昔前の日本の新聞のようにインクもにじんで指に付着する。ゆえにある程度読み込んだら神棚に飾る。あまり④多くは飾れないから買い控えをする。これが基本スタイル。こんな調子だから日本のような販売部数の伸びは期待しづらい。

③所得要因・地理的要因による電子端末の普及率の低さ


電子マンガに適したデジタルデバイスの普及が見られるのは都市部の中間上位層以上だ。全体でみるとごく少数派にすぎない。そのような層は、同じ金を投じるならマンガではなく少しでも学習やキャリアに役立つものを、と考える傾向もある。あと島嶼国家だから人口が各地に分散している。物流システムが貧弱なこの国のすみずみにまでデジタルデバイスが行き渡るにはかなりの年月を要する。

④日本製コンテンツとの相性の問題


インドネシア人が好きなストーリーライン。それは勧善懲悪よりも、ハッピーエンドよりも、とにかく「シンデレラストーリー」。これに尽きる。これだから韓国ドラマは驚異的にヒットした。シンデレラストーリーは直線的でわかりやすい展開。人間の機微を扱うことに長けた日本のマンガが彼の地の人々に対してどれほどの訴求力を持つのか疑問。

⑤価格の問題


インドネシアでは「ネット上の情報は無料が基本でしょ」という思想が支配的。ところで日本の作家たちはおしなべて電子書籍を敬遠している。なぜなら出版社のみを利するシステムと化しているから。そのあたりの詳しい説明は割愛。とにかく電子書籍に対して納得感が乏しい日本の作家たちに気持ち良く電子配信に応じてもらうとなると、作家サイドへの相当な利益分配が必要だ。インドネシアの人々が受け入れ(られ)そうな販売価格では日本の作家たちが期待するレベルの分配原資を捻出できそうにない。

⑥ポテンシャルも含めたマーケット規模が不明


インドネシアには日本アニメファン、マンガファンはたくさんいるとされている。ところがその規模に関する定量データにはお目にかかったことがない。加えて今後ファンになり得る層(ポテンシャルファン層)の把握もできていない。こんな状況では大がかりな販売キャンペーンはあまりにもハイリスク。そうは言っても大々的キャンペーンなしではアニメ・マンガの拡散力も限定的。にわとりが先か卵が先か、みたいな話だけど。むろん数百万人規模のマンガファンのオンラインコミュニティを作れたら解決しそう。

⑦無料で読めるサイト(ただし英語)の存在


(英語だが)無料でマンガを読める違法サイトは多数存在する。1冊のダウンロードに100円も払ってもいいよという気前の良い人は多くないはず。マンガ読者層の所得水準が日本と比べてずっと低いのがネック。ある程度所得のある人に対するビジネス書販売であれば電子書籍に馴染むかもしれない。将来違法マンガサイトが駆逐されたとしても、その頃には「多数の日本発無料マンガがネットで、しかもインドネシア語で読めるようになっていて、筆者は広告収入を得ているという世界」が訪れている気が。それなのにお金払って読む人はいますかね?

結論


これまでの文章にひとつだけ「ウソ」が混じっている。どれだろう?正解は「筆者はタイプAの営業マン」がウソ。実際の筆者はタイプBの営業マン。ただ現在は娯楽マンガの拡散にはあまり興味がない。日本のノンフィクション史の不朽の名作や児童文学の傑作など、思考力や問題意識・批判精神の向上に寄与する可能性が高く見込まれる作品やバランスの取れた情緒の形成に資する作品を活字で広めたい。

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深海魚
ライター

深海魚

光がまったく届かない暗黒の世界に生息する人間。人生で必要な知恵はすべてR25で学んだ。右投げ右打ち。好きな駅名は「御花畑」。

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